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【夜尿症】夜中のおしっこが止まらないお子さんへの鍼灸施術

夜尿症。正直に言うと、わたしは苦手な症状でした。

過去、夜尿があるお子さんに対して、わたしが「刺さない小児はり施術」とお灸を行ったら、夜尿の回数が減ったという経験は何度かあるんです。

わー、やっぱり小児はりって夜尿症に効くんだな!と実感を強めましたし、保護者さんにも喜んでもらえました。

数回の施術で、もう鍼灸施術の必要性がなくなって、通院を終えるケースもあって(まだ回数券残ってるけどまぁいいや、的な)、こんなにすぐ効くん?ってわたしがびっくりすることも。

ただ、全員こんなふうならすごいんですけど、刺さない小児はりをしていても、全く変化がないこともありまして。同じようにやっていても、です。

この時に、「改善が見込める夜尿症とそうでないもの」をきちんと説明できない自分がいるし、もっというと、夜尿症に対して「刺さないはり」と「お灸」しか施術の選択肢をもっていなかったので、自信がなかったのでした。

で、最近、日本小児はり学会が主催している夜尿症の講習会に出席したんですね。

そこで、「子どもにも鍼を刺した方が夜尿症が改善しやすい」という情報を得まして。

いままでも、必要だと感じたら、子どもに鍼を刺すことがありました。でも、夜尿症に対しては鍼を刺しましょうか、と提案したことはなかったんですよね。

とはいえ保護者の方もお子さんも、鍼を刺されるのか怖いと思うので、なぜ鍼を刺したほうが有用なのか、について詳しく書いていきます。

目次

夜尿症 診療ガイドライン2021

鍼灸師の本城久司先生によると、夜尿症に対しての診療ガイドラインは2004年につくられて、2016年に改訂されていたそう。

そして今回2021年に改訂されたものでは、さらにエビデンス(治療の根拠となるデータ)が増えて、非単一症候性夜尿症に対しての対応も追加された、らしい。まずはここに関してご説明します。

夜尿症の定義

こちらは2016年から変更がありません。

  • 5歳以上で、1か月に1回以上の頻度で夜間睡眠中の尿失禁を認めるものが3か月以上つづくもの
  • 昼間の下部尿路症状(※後述)はあってもなくてもいい
  • 1週間に4日以上の夜尿を「頻回」とし、1週間に3日以下の夜尿を「非頻回」とする

※下部尿路症状とは、【尿をためる・出す】に関係する症状を広く表現したものです

夜尿症のお子さんにとって大事な質問は以下の2つ。

①起きている時におしっこがもれるか?
②おしっこが我慢できない!という感覚が急に起こるかどうか(尿意切迫感)

他にも、「おしっこが出にくいか」とかの質問も必要ではあるのですが、夜尿症に関してはとりあえずこの2つはおさえておきたいところ。

夜尿症の分類

一次性夜尿症は、他の病気がないもの。およそ75%がこれです。

二次性夜尿症は、すでに病気があって、それに付随して起こるもの。25%が相当します。昔は二分脊椎とよばれていた脊髄係留症候群や尿道狭窄によって起こる可能性があります。

夜尿症のお子さんが10人いたら、そのうち2〜3人は、こういった病気が隠れている可能性がある、ということ。そして、病気かどうかは、鍼灸院ではわかりません。

二次性夜尿症であれば、原因疾患となっている病気の治療がすすめば、自然と夜尿症も改善するので、まずは必ず、泌尿器科を受診してください。

一次性夜尿症はさらに2つに分類されます。

単一症候性夜尿症
夜尿はあるが、昼のおもらしはない(60%)
鍼灸施術の対象です!

非単一症候性夜尿症
夜尿もあるし、昼のおもらしもある(40%)
少し治りにくいケースにはなるけど、じゅうぶん鍼灸施術の対象です!

お子さんが9歳を超えると、徐々に宿泊を伴う行事があったりするので、その前後ぐらいから治療を始めるのが一般的なようです。

夜尿症の原因

大きくわけて3つあります。

夜間多尿

内分泌系(ホルモン)の異常です。抗利尿ホルモンであるバゾプレッシンの分泌がうまくいかず、寝ているあいだにつくられたおしっこの再吸収ができなくて、どんどん膀胱に尿がたまってしまいます。その結果、膀胱が「もうむりー」ってなって、おしっこがでちゃうやつ。

覚醒閾値(かくせいいきち)の上昇

睡眠障害の一つです。身体の機能として、寝ている間に膀胱におしっこが溜まると、尿意で目が覚めるようにできています。しかし、眠りが深すぎて、覚醒しない(起きない)と、膀胱に尿がたまっていても眠り続けてしまうのです。睡眠とおしっこの連動がうまくいっていないやつ。

排尿筋過活動

膀胱の機能異常です。大人だと、過活動膀胱といわれます。これは、単に膀胱の機能が未発達の状態で、小児の場合は「まだ成長していないだけ」というやつです。この要素があると、非単一症候性夜尿症となり、難治性であるので、10歳以降も夜尿がつづくことが予想されます。

夜尿症の診療アルゴリズム

どのような手順で診察をすすめていくかのチャートは、以下のとおり。

夜尿があったとき、まずはそれを一次性か二次性かに分けます(これは泌尿器科でしかできない)。

一次性であった場合、昼の失禁があるかないかを分けます。

昼間のおもらしもあった場合は非単一症候性夜尿症となり、さらに便秘があるかないかによっても治りやすさが変わってきます。(ここが、2021年に新たに追加された要素)

おしっこのトラブルではありますが、便秘があると夜尿も治りにくいというデータがあるようです。

ここでいう便秘の定義は

・1週間に2回以下の排便
・トイレが詰まるぐらいの大量の排便があるかどうか

なども重要となります。

便秘だけでなく、便秘と下痢を繰り返すような場合だと、過敏性腸症候群の可能性もあるので、内科の治療と並行して行う必要もあるので注意しましょう。

夜尿症、おうちの生活における注意点

夜尿症では、生活指導が重要視されます。

水分、塩分、牛乳について

デスモプレシンというお薬を使っている方は、厳しい水分制限があるはずです。なのでここは、お医者さんの注意を守ってもらうことが大事。

ただしこのお薬を飲んでいない方に関しては、無理して夕方以降に水分制限しても、あんまり意味ないかもってかんじらしいです。

たしかに、夕方以降や寝る前にお水を飲みすぎないことは、夜間につくられるおしっこの量を減らすことにつながるのは間違いないのですが、だからといって夜尿が減るか、というと、そこはつながっていないようです。

なので水分摂取に関しては、お医者さんに言われたことをきっちり守ること。これが基本となります。

ただ、確実に言えることは、塩分・そして夕方以降の牛乳や乳製品の摂取を減らすと夜尿が減るようです。ポテトチップなどの塩辛いお菓子や、塩分多めのお食事は、控えるようにしましょう。

紙おむつをするべき?はずすべき?

紙おむつをしているから夜尿症が治らないのか、というとそうではないようです。

夜尿が頻繁な場合は紙おむつをすることで、尿量を計測できますし、洗濯の手間も省けます。また、本人の安心感も、良質な睡眠へとつながるようです。

夜尿が少なくなってきたら、チャレンジとして、少しおむつをはずしてみるのも良いです。夜尿があった時に布団は汚れてしまうけど、おむつを使っていない時の方が夜尿のない日が増える、といった傾向もあるようです。

どちらにせよ、本人や家庭の状況とてらしあわせてすすめていくのがよさそうですね。

夜中に起こしたほうがいい?

これは明確に否定されていました。

親が寝るタイミングなどで、子どもを一回起こしてトイレに連れていく……というものですね。これをすると、お子さんの睡眠が阻害され、結果的に夜間につくられる尿量が増えてしまいます。

ただし、宿泊行事などは特例として認められます。

また、アラーム療法は条件付け療法なので、この夜間覚醒は必要なものです。

その他、排尿指導やがまん訓練の是非、アラーム療法、デスモプレシン、抗コリン剤、三環系抗うつ薬(薬物治療)などについてもとても詳しく教えていただきました。めっちゃ勉強になった。

ADHDと夜尿症

ADHD(注意欠如・多動症)があるお子さんは、夜尿症を併発していることが多いです。

また、その特性から、生活指導やアラーム療法がうまくいかずに、お子さんが治療に積極的に専念できないという例も多くみられます。

ADHDにおける不注意や多動は、お薬でも抑えることができます。もちろん、お子様に薬を使うことへの心配や、副作用など、いろいろな問題はあるのですが、ADHDの特徴が落ち着いてくると夜尿症の治療もすすむことがあるので、小児はり施術がどちらのお悩みにも対応できるといいですよね。

夜尿症と鍼灸

どういう作用機序で効いてるねん

仙骨というお尻の骨にある「中髎(ちゅうりょう)」に鍼をすると、膀胱容量が増えた、というデータがあります。

昔は、膀胱にためられるおしっこの量が増えれば夜尿は少なくなるだろうと予想されていたんですが、実はこれはあんまり正しくないらしくて。

膀胱の容量が増えても、夜尿症が確実に減るわけではないんですね。(減ることも、そらあるやろうけど)

そこで最近は、膀胱の機能だけの問題じゃなくて、やっぱり睡眠と夜間多尿の関係性を見直していこーぜってなってるようです。

実際に、とあるお子さんの症例を紹介されていました。

・鍼を週に1回受ける
・3ヶ月後、変化が現れる
・夜間に排尿があったタイミングで目が覚めるようになった
・その後、夜中に自分で起きて排尿するようになった
・最終的に、夜間も起きずに朝まで寝て、朝に排尿するようになった(ここまで5ヶ月ぐらい)

ここで、何が起こってるかっていうと

睡眠と排尿という現象を比べた時に、身体として優先させたいのは睡眠のほうらしいんですね。なので睡眠中枢さんとしては、眠りを邪魔されたくない。

排尿、のあとに覚醒(起きた)が起こると、脳はストレスで、

「ちょっとー!もう!寝てたのに!!こんなことで邪魔しないでよねっ。んもう、腹立つからおしっこ作られないようにしたろ!これで寝れるやろ!」

っていうふうにして、夜間の尿生成に対して抑制的にはたらくそうなんです。

なので、この症例のお子さんが、最初は夜尿があっても気づかず寝てたのが、3ヶ月後に、排尿後に起きるようになった、というのはかなり大きな進歩で。ここから、ぐっと、睡眠中枢が仕事しはじめて、夜尿の前に起きる、が実現したわけです。

実際に、ラットのお尻に鍼をしている間の脳波を測定すると、起きてるんやけど、寝てる時と同じ脳波になったそうです。ノルアドレナリンの分泌が抑制され、深く眠っている時とおなじぐらいのリラックス効果もあったと。

以上のことから、お尻の鍼は、睡眠中枢の働きを良いものにするから夜尿症に効果的なのではないか?というのが、最近の見解のようです。

実際に子どもに刺す鍼の太さは?

はい。ここからは、わたしの個人的意見を書いていきます。

実はその講習会では、本城先生は「直径0.3mm」「長さ60mm」の鍼を子どもに刺入すると言ってました。

わたしが普段、大人の患者さんに使う鍼は「直径0.16mm」「長さ30mm」のものが多いので、なんかいろいろ2倍。

そんな太さと長さのものを、子どもに使う、というのに衝撃を覚えて。

本城先生は

「痛くすると嫌がられるし、効かなくなる。子どもに痛い鍼は絶対にだめ。痛みはなく、でもちゃんと骨膜に当ててひびかせて」

ということをおっしゃっていて、すごい。きっとものすごくお上手なのだと思う……。

わたしも練習したい!と思って、我が子に協力を要請するも、娘たちには全力で拒否されました。

「細い鍼使うから!」と言ってみたけど、恐怖感が勝ってしまって、もうこれ以上言うとなんか虐待になってまうレベルで嫌がられたので断念。

え……これみんなどうしてるの😇

というわけで、Twitterの鍼灸師にも聞いてみました。

何名かからリプライをいただいたけど、「太さ0.3mm」の鍼を使っている鍼灸師は見当たらない。

わたしが運営している小児はり鍼灸師のコミュニティでも、様々な方からご意見をいただきました。

  • 小学生には直径0.20〜0.25mm、長さ60mmの鍼を刺していた
  • 小学生までの中髎などの仙骨部だと、直径0.20〜0.25mm、長さ50mmなど、術者が操作しやすい鍼体の長さや太さでいいと思う。ただもちろん、目的の深さに到達するかや、安全リスクを考慮する必要がある
  • 治すためには、時に「痛い治療」が必要な場合があることを患児に説明している
  • 大人の泌尿器の論文だと直径0.3mmだけど、子どもにはもっと細くていいのでは?
  • 直径0.3mmであろうと、上手に刺すとまったく痛みを感じない
  • むしろ大人の泌尿器の治療にも直径0.20〜0.25mmの鍼でやってますw
  • 自分が小さい時に、直径0.25mm、長さ60mm以上の鍼を刺されていた経験がある。まったく痛くなかった経験もあれば、痛かった時もある。ちなみに大人になった今でも鍼を刺されるのが苦手ですw

どれもこれも、うんうん……とうなずきながら読んでました。

そこで、やはりわたしは、どんなに体格の良いお子さんでも、直径0.2mm(3番鍼)が限度かな〜と思いました。細くてちいちゃい子には、もちろんもっと細い鍼で。

ここは、保護者さんと、お子さん本人との同意がとれないとできないことなので、

夜尿症を改善するために、お尻に鍼を刺す

ということを、どの程度がんばれるか、だと思っています。今後、夜尿症の施術には、まずこのブログを読んでもらって、親子で考えてもらったうえで、

刺さない鍼、刺す鍼、どちらかを選択してもらえたらなと思います。

夜尿症への鍼灸施術が目指すところ

単一症候性夜尿症に対しては

・夜中におしっこをしたくなったら起きる、を目指す
・おしっこを膀胱にためられる量を増やせるようになる

こういった目的で施術します。

また、日中の失禁を伴う、非単一症候性夜尿症に対しては

膀胱が過剰に収縮してしまうことを防ぐ

といった目的の施術になると思われます。

夜尿症に対して治療を始めて(病院と鍼灸を併用しながらでも単独でも)、夜尿が半分に減った段階で、その治療は「有効」と判断されます。そしておそらく、完全に夜尿がなくなれば、治療を終了されると思います。

治療を終了したあと、ふたたび「1ヶ月に1回以上の夜尿」が出現すれば「再発」となります。

治療を終了しても6ヶ月間夜尿がなければ「寛解維持」、2年間夜尿がなければ「完治」です。

夜尿症の治療は、とても長期間にわたるものだと思います。親も子も、どちらもしんどい時があるかもしれません。

そういった時に、鍼灸に通うことで、病院の治療を補完的に補うこともできるし、また、なにより鍼灸師が親子のがんばりを認め、治療へのモチベーションを保つ一因になる、ということが大切なのだと学びました。

もちろん病院でも、先生は褒めてくれると思いますけど、褒められる場所はなんぼあってもいいし😋もともと鍼灸院って、病院よりも気軽に来れる、って方が多いので、ふだんからいろんなお話を聞いたり相談を受けたりすることも多いのです。

夜尿のことだけじゃなくて、他のいろいろなこともお話できたら、夜尿の治療もたのしく続けられるかな……と思います。

ということで、夜尿症でお困りの方は、是非一度、鍼灸という選択肢もお考えいただければ幸いです。

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